公益社団法人 仙台青年会議所 広報誌 のぞみ

理事長対談 小林稜平氏、タミル・ブルーム氏

大髙)理事長

小林)小林稜平氏

タミル)タミル・ブルーム氏

大髙:本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。仙台を拠点に、住み暮らす地域のみならず、日本、そして世界を見て活躍されているお二人に、想いやこれからの展望について伺っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

仙台から世界へ!

小林)私は東北大学発ベンチャーとして、宇宙で研究開発や製造が可能な人工衛星を作っています。これまでは国際宇宙ステーションで宇宙飛行士がそのような実験を行ってきたのですが、宇宙ステーションは2030年に運用が終了するということが決まっていまして、新たな民間のプラットフォームが求められています。そこで我々は、従来、国際宇宙ステーションで行ってきた実験や実証を無人の人工衛星で実現できるようにしようということで開発しているのがこのサービスとなります。

一番の特徴は、人工衛星が宇宙から地球に戻ってくる大気圏再突入・回収技術ですが、これをコア技術として、30名ほどの体制で2026年の打ち上げに向けて活動をしております。

 

大髙)打ち上げは2年後ですね。仙台を拠点に活動されていますが、打ち上げ等はどこから行うのでしょうか。

 

小林)打ち上げは海外です。そのための開発を仙台で行っております。

 

大髙)ありがとうございます。世界に通用する技術を仙台から発信するなんて、とても誇らしいです。タミルさんは、農業用のロボットを作っているということですが、お話を聞かせてください。

 

タミル)農業は労働集約型の産業であり、人手不足が深刻です。さらに農家の平均年齢は68歳と欧米に比べて高齢化も進んでいて、後継者問題など厳しい状況にあります。その課題を解決するためAdamという農業ロボットを開発しました。

Adamは、1つのロボットで複数の作業が可能です。例えば、アタッチメントを付け変えることで、草刈りや農薬散布、収穫を行うことが可能となります。現在は1つの農機で1つの作業を行うことしかできません。そのため、運搬車、農薬散布機、草刈り機などをそれぞれ購入する必要があり、設備投資やその後の維持費といった金銭的な負担が多く発生します。1つのロボットで複数の作業を行うことでコストを削減することができます。

また、このロボットは自立的に動くこともできるため、重いものを運ぶこともできるし、農園の見回りもできます。より少ない人数で、より広い農地を管理することが可能です。

技術を活用し、より収益性の高い農業の実現に向けて活動を行っています。

 

大髙)ありがとうございます。農業は非常に大切な分野でありながら、高齢化が進む中において、農業用ロボットはとても心強いですね。ロボットの普及により、日本の農業がより発展することに期待しています。

この仙台(まち)が好きだから

大髙)それぞれが取り組まれている事業は、日本国内や世界、そして宇宙をターゲットにされていますが、お二人共、活動の拠点を仙台におかれていますね。

 

小林)本社を仙台としています。ビジネスの拠点は東京ですが、モノづくりは仙台で行っています。モノづくりの関係で東北地方の企業との連携もしています。福島県南相馬市にある福島ロボットテストフィールドなども活用しながら、東北での人工衛星開発に注力しています。働いているメンバーには、JAXAや宇宙関連企業の出身者も多数おり、そうしたエンジニアと一緒に仙台でモノづくりをしています。

 

大髙)ビジネスの中心は東京であるにもかかわらず、あえて仙台に拠点を置いている理由はお聞かせいただけますか。

 

小林)私は秋田出身で、東北大学に進学しましたので、育ってきた東北地域に貢献をしたいという想いがあります。そのためには、大きな産業を作っていくことが重要だと思っていますし、その活動が、人口減少や高齢化問題の解決に繋がると考えています。

また、新しい産業を作っていくという観点では、他の地域で既にやっている事業ではなくて、新しい事業を作っていくことが必要だと思っています。まさにそれが宇宙産業だと思っています。地域から我々が中心となって宇宙産業を作っていくことで、いろんな人が集まってきて、周りの企業も一緒に成長していく。そういった地域への貢献をやっていきたいと思っています。

さらに、宇宙産業というグローバルな事業を地方から生み出すということ自体に価値があると思っています。そのプロセスを通して、いろいろな人が夢や希望を持ってくれると思っていますので、震災があった地域から新たな宇宙産業を作っていくということが重要だと感じています。そういう想いで仙台から挑戦したいと思っています。

 

大髙)ありがとうございます。私も茨城出身ですが、仙台というまちがとても好きになりここで暮らしていきたいと思い現在に至ります。仙台を拠点に発信をしていくうえでのメリットは多くあると思っています。小林さんは仙台市ダイバーシティ推進会議の委員になられていますが、行政とのかかわりについてお聞かせいただけますか。

 

小林)仙台市はスタートアップ支援にかなり力をいれていて、その結果として起業率も非常に高くなっています。一方で、仙台は支店経済で大きな企業の本社がありませんでした。その点については仙台市も課題として認識していて、スタートアップを支援していこうという想いがありますので、我々もそれに応えて成長していくという部分でシナジーがあると思います。今後も仙台市、宮城県の支援制度も活用しながら事業を伸ばしていこうと考えています。

 

大髙)小林さんの会社の発展が、まちの発展に繋がっていくと確信していますので、これからも頑張っていただきたいです。

 

小林)頑張ります。ぜひ応援いただければ幸いです。

大髙)タミルさんは海外から来日されて、仙台で活動されている理由をお聞かせいただけますか。

 

タミル)私はイスラエルに生まれ、アメリカで育ちました。今は2回目の来日となります。

1回目は2015年に来日し、小型月面ロボットを開発する機関でインターンをするために仙台に来ました。仙台に来ました。その時に出会った人々がとても素晴らしく、また仙台に来たいと思いました。2018年に2回目に来日し、仙台で会社を設立しました。今は千葉県にも開発拠点はありますが、これからも仙台を中心に会社を成長させていきたいと考えています。

 

大髙)お二人とも仙台が好きという想いからスタートし、地域の発展を目指しているというところが、とても素晴らしいですし、仙台(まち)の誇りだと思います。

 

タミル)2015年に来たときは青葉山まで地下鉄はありませんでしたが、2018年に来たときは地下鉄が開通していました。今日の対談場所である「青葉山公園仙臺緑彩館」も来日した時にはなかった施設です。街としても成長し続けている点が仙台の魅力だと思います。

 

大髙)皆さんのように地域に根差している若者がいるからこそ、このような施設も充実してきていると感じています。

 

大髙)小林さんは、開発している初号機の愛称を「あおば」に決定されましたが、それは仙台に対する想いからでしょうか?

 

小林)2026年に打ち上げる衛星に「あおば」という愛称をつけています。愛称を社内公募した際に、社員から出た愛称案のひとつでして、本社が東北大学の青葉山キャンパスにあり、そこでモノづくりをしていますので、地域への想いから名付けました。また、「青葉」という言葉の意味が若い葉ということで、我々にとっても最初の衛星ですので、これからどんどん成長していくという意味も込められています。いくつか出た案の中から、社員投票で決めたものになります。

 

大髙)素晴らしいエピソードですね。

 

大髙)タミルさんは仙台にゆかりのある言葉を使われたりしているのでしょうか?

 

タミル)社名は「輝」に「翠」という2文字で、「輝翠」とつけていますが、「翠」の字は晩翠通りの漢字をつかっています。

 

大髙 お二人とも仙台に対する愛が溢れていますね。嬉しいです。

 

大髙)台青年会議所の活動の最終的な意義は恒久的な世界平和を目指して活動をしていますが、お二人の活動の意義をお聞かせいただけますか。

 

タミル)日本や世界の農業の活性化に貢献したいと思っています。農業は給料が低く、働く時間も長い。休みを取ることも難しい職業です。活動を通してより少ないリソースで、より多くのリターンを獲得できるように農家の活動を支援し、農家の経済面と地方の経済に貢献したいと考えています。

 

小林)宇宙というと地球上の生活とは関係ないように思いますが、天気予報やGPSは宇宙のインフラを使っています。気が付いていないだけで、日々の生活に「宇宙」の技術は欠かせないものになっています。

我々の提供する宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」は宇宙での実験を加速するプラットフォームですが、そこから新たなサービスが生まれ、そのサービスを利用する人が生まれるという、宇宙での産業のエコシステム拡大につながる取り組みであると考えています。そうして宇宙開発が発展していくことは、地球上の生活をより豊かにすることに繋がります。ですので、我々は宇宙開発に欠かせない実験・実証の場を気軽に高頻度に行える環境を提供することで、地球上の生活をより豊かなものにすることを目指して、事業に取り組んでいます。

 

大髙)宇宙というと日常生活とリンクしてこないと感じてしまいがちですが、今のお話で当たり前の生活に深く関わっているということを知ることができました。

 

小林)今後は、その流れがより加速すると思っています。宇宙の無重力という環境を使えば、地球上では作れない材料を作ることができる可能性があります。将来的には地球上で行われている最先端の製造は宇宙で行い、それを地球で使用する。地球と宇宙が一体となったエコシステムができてくると考えています。我々は、『誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする』を会社のミッションに掲げていますので、宇宙と地球がひとつのエコシステムとなり、人々が当たり前に宇宙で暮らすことができるような世界を作っていきたいと思っています。

大髙)最後にお二人はどうして今の分野に興味をもったのかを教えていただけますか?

 

タミル)大学では、宇宙ロボットを研究し、大学院では月面探査機の研究に関わっていましたが、学生時代に東北地方を旅行する中で、畑を見て美しいと感じ、そこから農家の方との交流を深めることができました。そこで出会った農業の高齢者の方が、暑い日でも働かなければならない環境や農業が抱える課題を改善したいと思い、宇宙工学で培った技術を農業に転用し課題解決することを考えました。

 

大髙)日本に来て、東北各地を回らなかったら、農業にシフトすることはなかったんですね。小林さんはいかがですか?

 

小林)私の専門は建築で、宇宙ではありませんでしたが、宇宙建築という分野に出会い、将来、人が宇宙で生活できる未来を実現したいと考えるようになり、今の事業にたどりつきました。

ですが、ただ宇宙に行けるとか、場所を作るだけではなくて、人が宇宙で生活できる経済圏を作る必要があると思っていますので、そのために必要な技術を獲得しつつ、そうしたエコシステムを作るためにはどうしたらよいか考えて、今の事業にたどり着きました。

 

大髙)小林さん自身は宇宙に行ってみたいですか?

 

小林)行ってみたいですね。

 

大髙)私は怖くて、飛行機も怖いくらいです。小林さんが宇宙に行っている姿をテレビで拝見できる日を楽しみにしています。

 

大髙)仙台青年会議所の今年のスローガンは「Happiness!」としています。まちに住んでいる人の意識が変わらない限り、そこに住んでいる意識以上にはまちはよくならないと思っています。今日お二人とお話させていただき、これだけ世界規模で意識高く考えている方が、仙台にいてくださることにより仙台の発展もますます加速すると感じました。まだまだ若いお二人ですので、ぜひ、仙台、地球の発展のためにご尽力いただきたいと思います。

本日はありがとうございました。